世界の学校から

風来坊が綴る、世界の教育現場のあれこれ

海外マルチリンガル児が漢字学習で目指すところ

今月のマルチリンガル漢字指導法研究会の定例会は

 「漢字ワークショップの試み
   ~どんぐり日本語クラスにおける漢字クラブ発足に向けて」

で、シカゴの日本語教室の先生の発表だった。

彼女とは、一緒にに「日本語補習校に行かない」という選択をした子供たちのための日本語教室を一緒に立ち上げ、2年間共に歩ませてもらった仲。今回は、これまでの授業にプラスして、漢字ワークショップを開くということで、2回のトライアル授業をして、発表してくれた。

いつも彼女について思うのだが、今回もすごいなと思ったところ。

  • 既成観念にとらわれない
  • 目の前にいる子供たちが楽しいと感じることを何よりも大事にする
  • プレゼン資料が超見やすい

今回の場合においての「既成観念」とは、

  教科書に沿うべき

  漢字は学年配当に沿って

  書き順はしっかり

  とめはねもきっちり…

といった、いわゆる私たちが日本の学校教育でみっちり仕込まれたものである。彼女は教育畑出身ではないとはいえ、日本で育ってきたのだから、この呪縛がないはずないのだが、悠々とそれを超えてしまう。

彼女と話していて、何度も「目からうろこ」という経験をさせてもらった。

時には、不必要な呪縛に気づかされ、ブレインロックを外してもらい、

時には、こだわるべきところを明確にしてもらい、言語化するチャンスをもらったり。

 

今回も発表でも、タイトルの通り、「海外マルチリンガル児が漢字学習で目指すところ」を改めて考えなおすきっかけとなった。

 

往々にして、目的と目標を混合してしまいがちだけれども…

多くの海外在住のマルチリンガル児にとっての漢字学習の目的は、今も昔も、

「漢字かな交じり文を理解でき、わからない漢字や熟語に出会ったときにその意味を調べることができる。」

ではないだろうか。

でも、そこに至るまでの目標(目印)は時代とともに大きく変わっていると思う。40代の私が学生時代だったころは、わからない漢字を調べるのに分厚い「漢字辞典」を引くしかなかった。それを活用するには、音訓の知識か、部首の知識、画数の知識がないと、ツールとして使えなかった。

つまり、かなりの漢字そのものの知識をため込まないと、目的を果たすための漢字辞典というツールを使えなかったわけである。

ところが今は、見様見真似で手書きでめちゃくちゃな書き順で書いても、Google翻訳様が、候補を出し、漢字のみならず熟語の候補も出して意味も出してくれる!

 https://translate.google.com/?hl=ja

(右下の鉛筆マークのところを押すと、手書きオプションがある。)

 

さらに、最近では、書く必要もなく、カメラでパシャリと取れば、意味を教えてくれるアプリまで出ている様子。(まだ試していないで使い勝手のほどは後日レポート)

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.yomiwa.yomiwa&hl=ja

 

なので、もし、漢字学習の目的が、単純に

  「わからない漢字や熟語に出会ったときにその意味を調べることができる」

ことにあるなら、目標は、

  「便利なツールを使いこなす」

ことになり、もう面倒な学習は必要ないということになる。

 

しかーーーーし、「継承語」として漢字を学ぶ子供たちの目的は、もう一歩進んで

  「わからない漢字や熟語に出会ったときにその意味を推測することができる」

ところにあると思う。もちろん、今の時代使えるツールはすべて駆使しながらも、一度調べた漢字が次に応用が利くように。

 

そのためには、どんなことが目標になっていくのだろう?私は、二つのことが必要かなと考えている。私はそれを「串団子」と表現したのだけど…

  ① 基本的な漢字の貯金

  ② 漢字や熟語を俯瞰する知識

①が、串。②が、団子。

①は、学年配当の順番はこだわらないのだけど、「小学校3年生くらいまでの漢字」は、見ないですっと書いたり読んだりするところまでにしておきたい。そうしたら、漢字を線ではなくパーツとして、そしてその後はその組み合わせで見ていけるから。

欲を言えば、完璧とまではいわなくても「小学校6年生くらいまでの漢字」。そうすれば、抽象概念も漢字で表現できることに気づくから。

②については、まだモヤモヤとしているのだけど、教科書の漢字単元が役に立つかなと思っている。

 

ということで、10月には、私が「意外と使える教科書の漢字単元」(仮題)で発表させてもらうことに。この発表を機に、海外マルチリンガル児が漢字学習で目指す目標や手段がはっきりするといいな。

もちろん、これはあくまでも指導者側が指導の前の心構えとして持っておくもので、実際には目の前の子供の能力や願いとすり合わせて調整していくことになるのだけど。(このことも、定例会の中でのメンバーの発言から改めて大事にしないと思った視点!)

 

以下宣伝…

「マルチリンガル漢字指導法研究会」

9月の定例会には、カナダ在住で日本語教室を開いているメンバー(ブログFB)が、

    「幼児期のカタカナ学習〜漢字学習を見据えたカタカナ習得の工夫」(仮題)

を発表予定。

 

11月以降は、「唱えて覚える漢字学習~ミチムラ式」の道村静江先生と漢字クラウド社長の友晴さん

   「ミチムラ式漢字学習法 plus 1〜 学年配当に縛られない効率的な学び順 〜

   「ミチムラ式漢字学習法 plus 2〜 低学年から音訓同時に覚えて語彙を増やす必要性

(仮題)を発表予定。

 

興味がある方は、会の趣旨を説明したこのブログ記事を読んでいただき、お気軽にお問い合わせください。多種多様な人がゆるりとつながり、気づきをがっちり積み上げる研究会をモットーにやっています!