世界の学校から

風来坊が綴る、世界の教育現場のあれこれ

漢字の「音」に挑む

漢字が苦手、漢字に躓いている

と一言で言っても、躓きの理由は色々だ。

 が覚えられない
 音読みが覚えられない
 漢語に悩まされている

今日はその中でも「音」の躓きに対峙するための幾つかの教材を紹介したい。

ミチムラ式カード

  • 学年配当漢字ごとに整理されている。(カードなので、入れ替え可能
  • 小1~中3の漢字までカバー。
  • 「漢字タイトル」として、音訓ともに「日本人への親密度の高さ」を基準に同音異義語を避けた厳選した言葉が載せられている。


漢字クラウド会社で購入可能
kanji.cloud

 

音訓ソング

  • 学年配当漢字ごとに、20個ずつに一つのビデオに整理されている。
  • 小1~中3の漢字までカバー。
  • 音訓ともに、575のリズムで覚えられるしくみ。
  • 言葉の選出規準は不明。
  • 言葉に関係がある絵があり、語彙理解を助ける。

 
Youtubeで無料配信
www.youtube.com

 

漢字リズム音読~ ハワイで生まれた漢字学習メソッド

  • 学年配当漢字ごとに、「訓読み」「送り仮名のある訓読み」「音読みのみ」「音訓両方の読み」の章立てでそれぞれ音節数に従って学年ごとにに整理されている。
  • 小1~小6の漢字までカバー。
  • ラップ調のリズムにのせて覚えられるしくみ。(本の中にQRコードがあり、YouTubeに飛ぶ仕組みになっていて音も聴ける)
  • 言葉の選出規準は、「お母さん目線で知っておいてほしい言葉」
  • 言葉に関係がある絵があり、語彙理解を助ける。

 

Kindle版のみ(unlimited会員は無料)

漢字がたのしくなる本 ワーク④

  • あまり学年配当にこだわらず、以下の構成で形声文字の仕組みに気づかせる。

 (1)音読みお経を唱えたり、音の分析をさせたりして音読みに慣れる
 (2)同じ「音」の漢字を集める
 (3)同音の漢字の中に「同じ部分」を持つ漢字があることに気づく
 (4)形声文字は義(意味)を担う部首と、音を担う音記号からなることを理解
 (5)次の三つの「例外」に触れる
   ①いろいろな位置に来る音記号
   ②ふくらんだ音記号
   ③音が変わる音記号

全国の書店で購入可能

いつ、どれを使えばいいか?

 実践はこれからなのだけど(笑)、海外で育つ子供たちにとって、私が思うには…
 
 「音訓ソング」「ハワイ漢字リズム音読」
  → 予習(春休み!読みだけは先にマスターしてしまう)

 「漢字がたのしくなる本」
  → 機会を捉えて、子供の実力、興味関心に合わせて

 「ミチムラ式」
  → 復習用 (学期末、学年末、漢検受験前等)

にいいかなと。
一応、うちの子供で試した例を参考までに。

edu-kachan.hatenablog.com

また、実践して報告したい。もちろん、皆さんからの体験談も大募集!

日常生活を漢字につなぐ一押し③~漢字の有用さに気づく看板

「漢字ってすごいよね~字で意味が分かるってすごくない?このすごさをどうやったら、フランス人の友達に伝えられるだろう。」

昨日、急に目をキラキラさせながら高1になった長女がこんなことを言ってきた。

随分早く思春期が始まり、真っ盛りの彼女から、いきなり、こんなこと(今自分が考えていること)を言われるとは思っていなかったので、面食らった。けど、これまたチャンスと思って、くいっと、引っ張ってみた。

 長女が漢字のすばらしさを感じたわけ

「おお!漢字のすばらしさに気づいた!!すごいスゴイ!それを今、ママはどうやったら子供たちに気づかせてあげれるか悩んでいるんだよ~どうやってそこにたどり着いたか、教えて!」

『昨日、宮部みゆきの本を読んでいたら、光という名前の登場人物が出てきたの。光って、フランス語に直したらlumièreでしょ?すごくきれいな名前じゃん。漢字一つでこんな意味を表すって当たり前だけどすごいなと。で、それをリリィ(仲良しのフランス人の友達)に説明しようと思って考えていたんだけど、文字に意味があるって、フランス人にはすごくびっくりでうまく伝わらないだろうなって。しかも、それが2千個以上あって、それぞれの意味をどうやって覚えるのって聞かれると思うんだよね。でもさ、普通にわかるんだよ。漢字を見れば、自然になんとなく。それをどうしても説明できないなとか考えていて。』

「なるほどね、その境地に達したわけね。自然にというけど、それが自然になるまでにこれまでずっとインプットし続けてきたんだよ。頑張ったね。」

マルチリンガル漢字指導法研究会で、「楽しい学習」という話がでるけれど、今回の娘のように、学んだことの粒がある時つながって、「楽しい」と感じることもある。一回一回の授業が楽しいに越したことはないけど、そこにこだわりすぎることもないなと思った。

河原で見つけた看板

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ちょうどおとといの朝、ランニングの途中でこんな看板を見つけ、これは

  漢字の有用性に気づくのに使える

と思っていたので、早速、

「ねえ、今日ママこんな看板見つけたんだけど、これって漢字がすごい訳を実感するのにいいと思うからちょっと実験させて」

高1娘で実験

「今から平仮名の文を5カウントする間、見せるから意味を把握して」

写真を拡大して、ひらがな表記の部分だけを読ませる。

『えー、どこで切るのかわからないよ。ダムが何?』

「じゃあ、次は漢字かな交じり文。これは、3カウントね。」

『あーーーー、すごいホントだ!3待たずに意味が分かる!』

「だから、漢字って便利なんだよ。新聞とか漢字だけ追っても意味がわかるもん」

中1息子で実験

ちょうどそこへ顔を出した息子に同じようにやってみた。

 

【平仮名場面】

「水がばあーと来て、危ないってこと?」

と平仮名でも早く読み取ってしまった…。でもそれには答えず

『次は漢字が入った文が出てくるよ。これは短い時間しか見せないからね。今予想した意味があっているかなぁ~』

 

【漢字場面】

「最初の字が分かんないから、わかんない(放)」

 

全部既習漢字なんですけど…この子は

  漢字=難しいのブロック

が変にかかってしまったみたいで失敗!

小1娘で実験

「私もやりたい!」

とせがむので、

『大きな声で読んでみて』

と平仮名部分を読ませ、どこで切るか観察した。

 

  ダムの みずを ながしかわのみずが ふえることがあるからきをつけよ

 

一緒に散歩していた時に撮った写真ですでに説明した後だったので、初読で理解できたかは確かめられなかったけど、この読み方だとおそらくできていないだろうな。

やっぱり、ひらがなだけこう羅列されるとね。せめて、分かち書きしてほしいな。

 

緊急事態宣言で不自由もあるけど、こんな風に子供3人といろいろ遊んで楽しんでいる私。マルチリンガル漢字指導法研究会のステップジャンプ期で漢字イヤイヤ期に突入している子に試してみたいな。

日常生活を漢字につなぐ一押し②~駅名から漢字クイズ

少し前になるが…早朝、スキーに行く電車の中での会話。
電光掲示板に、順番に駅の名前が表示されるので、退屈している子供たちにクイズを出してみた。

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最恐線?最強線?ならぬ埼京線


年長娘へのクイズ

『次に停まる駅の名前があそこに出るからね、漢字だけど、片仮名がかくれんぼしているの。消える前に一つ見つけられるかな?』

  与野本町

と表示。
「あった、「マ」だ!」
『まだ、あるよ!急げ!消えちゃう~』
「「ア」」と横から息子。すねる末っ子(笑)

小6息子へのクイズ

『ちょっと、小さい子への質問を横取りしないで!じゃ、あなたにも。その、「マ」と「ア」で何と読む?』
「予(よ)」
『どんな時使う?』
「予定のよ?」
『あったり~』

中3娘へのクイズ

調子に乗ってきた私。
『よーし、じゃあ、お姉ちゃん、予定の予の訓読みは?』
返事は…
「ちょっと、やめてくれる(怒)!!朝から漢字!」

はい、調子に乗りすぎました~
  子供たち、基本クイズは大好き
で、よく旅行中はこんな即興クイズで遊んでる我が家。
だけど、思春期の子供には不向き。特に朝(笑)!

年齢が違っても、それぞれのレベルに合わせたクイズが考えられるのは嬉しい。

日常生活を漢字につなぐ一押し①~え?これ、音読み?

 ファシリテータを務めるマルチリンガル漢字指導法研究会、それぞれ対象とする子供たちの年齢もレベルもまちまちなので、大体のレベルで「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」と分け、二つの部会が誕生!

 

「ジャンプ」期になると、万人に効くやり方というのが、なかなかない。漢字が難しくなる子も多いし、本人の得意や好み、興味に合わせたり、機を捉えた一押しが大事だなと思う。

 

「ジャンプ」期に関わらず、机上の勉強をうまく日常生活に結び付けたり、また、その逆、日常生活での疑問を学習に結び付けたりすることが大事だと思う。

でも、これって意外と難しい。

 

そこで、誰かのヒントになればいいなと、私の日々のちょっとした家庭での実践をシリーズで記録していくことにした。

子どもの質問への初めの反応

  「え?これ、訓読みじゃないの?」

 

公文で、漢字の学習をやっていた時の中1になりたての息子の質問。

 

 「胃(イ)や腸(チョウ)って、どうして訓読みじゃないの?」

 

こういう「What」ではなく「Why」の質問を子供が投げかけてきたときには、自分が答えを知っていなくても、まずは褒めてあげることが大事だと思う。

 

  「おお!いい質問!」

  「考えたことなかったけど、そういえばそうだね、鋭い質問!」

 

とかいう感じで。

今回の私の返し。

「いいことに気づいたね~。音とか訓とか意識しているって相当レベル高いよ。」

 

質問から一歩踏み込む

上の返しで止めてもいい(止めた方がいい時も多々(笑))けど、今回は踏み込んでみた。

 

 「音訓読みって、それぞれどうやって生まれたか知っている?」

 『中国から来たか、日本のもともとの言葉かでしょ?』

 「おう、さすが!だから、音読みで意味がわからない漢字でも訓読みにするとわかるんだよね。胃や腸に、訓読みがないのは日本語にはその言葉がもともとなかったのかもね。どうしてだろう?」

 『…』

 「やっぱり医学は中国の方が進んでいたからかなと思うんだけど、どう?」

 『なるほどね。』

 「こんな風に日本語に馴染んじゃって、訓読みに勘違いしちゃう言葉ってほかにもあるんだよ。」

 『あ、なんかそれ学校でやった気がする。』

 「そういうのばっかり集めたプリントがあったな。やってみる?」

 

質問から拡げる

ということで、漢字がたのしくなる本ワーク⑥【リンクは記事最後に!】の以下のページをあげた。

 

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このワークは、ドリルみたいに使うのではなく、こんな風に

  機を捉えた学習

に使うと有効だと思う。

 

「藩」「盆」「尿」は言葉自体の意味を知らなかったけど、消去法と文脈から中々の健闘を見せていた息子。知らなかった言葉はサクッと教え、最後の一押しは、

 

  「音読みと聞いて、意外だった漢字を5個、選んで!」

 

息子が選んだ漢字は、以下のもの(全然5こじゃないけど(笑))

 

  駅、門、列、罰、客、肉、鉄、絵、金、銀、銅、線、本 

 

正直な話、私もこれ?音読みかぁ?と字典を引くのも幾つか。

「そうだよね、迷うよね~」

で、終わった一押しだった。

 

親が変われば子どもも変わる!

少しずつだけど、漢字を使いこなすためにまた、漢字を推測するために必要な

  漢字の本質をつく質問

息子がするようになって、嬉しい。 

前は、「どう書くの?なんていうの?」という質問しか出てこなかったのに!

 

どうやって息子が変わったのか?

  道村先生のセミナーを受けたこと
  学校の授業

  認知的な発達

などもあるだろうけど、多分

  私が変わったこと

が大きいと思う。私の働きかけが変わったから、息子の学び方が変わったんだと。

どうしてかというと、マルチリンガル漢字指導法研究会を2019年3月に始めて、ゆっくりではあるけど、

  漢字への理解が深まり、自分の中の「知識の引き出し」が増えたこと

そして、

  メンバーからいろんな子どもへのアプローチの仕方を学んだ

からだと思う。感謝!

 

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漢検に挑む⑤~見事な!?合格

小六の息子、中二の娘が2月に受けた漢検の結果が送られてきた。2人とも、見事な合格。

何が見事かと言うと、

  合格ライン8割、ギリギリで両方とも受かったこと

200点中両方とも見事に160点(笑)

 

実際には、後から7割で合格ということがわかったんだけれども、私は8割だと思っていて子供たちもそのつもりで勉強していた。

以下、漢検などの資格試験に臨むとき、ひいては、バイリンガルを目指すときに大事なことと私が考えていることについて書いてみる。

 

資格試験を受ける時のミソ

  100点を目指さないこと!

に尽きる!

なぜなら、資格試験は

  他人に自分の能力を示し、面接や入学試験の最初のドアを開けるため

にあり、合格か不合格かが問われ、合格点はまず聞かれないからである。

 

そもそも、資格試験の点と本人の能力は必ずしも比例しない事は、TOEICの点数はいいけど、現実の場面で英語役立てられない人が数多くいることを見ればよくわかる。

 

だったら、満点を目指して余計な努力するより、最小限の努力と時間、資格を取ることに集中したほうがいいと思うのだ。

 

実はこの発想、結婚当初、フランス人の夫から学んだことである。

当時、会計士の資格試験を受けていた夫は、20点中10点で合格できる試験を11点で合格。受かったことよりもぎりぎりの点数で受かったことの方を心底喜んでいた。

日本の教育=完璧主義を受けて育った私は、心底驚いたのを覚えている。

その時、夫曰く。

  どうせ、法体系は変わるんだから、細かいことを覚えてもすぐ無用に。

  最小限の努力で資格をもらえばいいでしょ?

なるほど~~と、腹落ちしたのである。

 

資格試験を受ける真の目的は?

さらに言うと、私自身は資格試験を受けるとき、あまり合格に重きを置いていない。 

日程があるので、後回しになりがちな勉強に限りあるリソースを 

  短期間集中して、その勉強に時間を割くための手段

としか思っていないのだ。

もちろん、子供はやはり受かると嬉しいし、自信をつけるから、受かるようにサポートするけど…この軸をしっかり持っていることは結構大事だと思っている。親が

   合格しようがしまいが、その過程であなたは学んでいる

 とっていると声掛けも変わる。

 

前の記事 

edu-kachan.hatenablog.com

 にも書いたが、私は試験を受ける前から、子供たちにママの目からはもうあなたたちは合格!宣言を出したほどである。

 

この種の資格試験に過度にこだわる人、逆に過度に毛嫌いする人がいるなぁと思う今日この頃だったので、私の考え方を書いてみた。

 

「きんきゅうじたいせんげん」から漢字の世界に誘う

テレビをつければ、コロナの話ばかり。

時事問題が好きな小6息子、小説とかはほぼ日本語では読まないけれど、ニュースなら見る。

そして、この質問。

 

  「きんきゅうじたいせんげんって何?」

 

すかさず、横にいた中3娘が応えることに、

「字、見ればわかるじゃん、字のまんまだよ!」

「?」でムカッとしている息子。

日本語力、年齢差がある兄弟バイリンガルのあるある日常場面(笑)

 

ちょうど、前日、漢字がたのしくなる本ワーク⑥のこのページを見ていた私は、お、ちょうどいいじゃん、と思って、

  「いい質問だねー!」

と、すかさず私が拾って、説明した。

 

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漢字そのものを勉強して、

  ドリルなどで「持ち数漢字数」を増やすことも大事

だけど、日々のこうしたやり取りの中で、

  「漢字や熟語を見る目をじっくり養う」ことも大事

だと思っているので、その一例として誰かの参考になればと思う。

 

 

 音を漢字に直す

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まずは、片仮名で書いて、漢字に直して見せた。

娘が言うように、これで字が分かればかなりハイレベル。

だけど、息子は音から漢字は導き出すのはまだキツイ。

なので、書いてあげた。

 

6字熟語を意味の切れ目で分ける

 そしたら、「真ん中の熟語はわかるんだけど、後の二つが分からない」

とすぐ言った。

「この長い熟語の切れ目を見つけてごらん」と聞こうと思っていたけど、

  長い熟語はいくつかの2字熟語からできている

ことは理解しているらしい。

「お、よくわかっているじゃん!」

と褒めたら、元気になって

「学校でやった。最初の熟語が次の熟語を説明しているんでしょ?」

と、上の図のように、すらすらと矢印、囲いをした。

 

漢字を示して、そこから意味を推測する

そこまでわかっているなら、

「あとは漢字から推測すればいいんだよ。」と続ける。

この時、「急」→いそぐ のように、訓読みがある漢字は説明が簡単。

でも、高学年に行くほど、

  音読みしかない漢字が増えてくる…

そんな時は、

  その漢字を含む熟語を並べて帰納して説明するしかない

で、この時に

  豊富な語彙がないとアウト

になる。

今回は、息子の語彙力、ギリギリセーフで、日本語で全部説明できた!

 

本人がよくわかる言葉に訳す

意味が分かった後で、

「つまり、○○ってことでしょ?」とフランス語で確かめてきた。

この年齢になったら、

  自分が得意な言葉ではっきり意味がわかる

ということも大切だと思う。

 

上のステップで語彙が足りなかったら、いずれにしろ、得意な言葉に訳して説明するしかない。ただ、当たり前だけど、訳が一対一にならないことが多いし、細かいニュアンスが違うことも多いので、できれば、継承語として教える時は、日本語で教えたいなと思う。

 

そのうち、

「きんきゅうの『きゅう』って、急ぐ?」

「宣言のせんの訓読みって?」

なーんて、質問をしてくれるようになると嬉しいんだけど。

 

「漢字がたのしくなる本ワーク⑥」のレポートも合わせてどうぞ!↓

edu-kachan.hatenablog.com

edu-kachan.hatenablog.com

ブックレビュー 分ければ見つかる知っている漢字

12月にレポートした「漢字がたのしくなる本ワークシリーズ」の作成の中心だった宮下久夫さんの遺稿集。
ワークのレポートしながら、製作者の意図や漢字全体の捉え方はだいぶ分かったものの、腑に落ちないこともあった。
今回、この本を読んで、


がよりはっきりわかったので、紹介したい。

製作者たちのバックグラウンド

「漢字がたのしくなる本」シリーズは4人の編集メンバーが月に一度一泊二日の研究会を開き、10余年かけて作られたものだという。
中心だった宮下さんは教師なので、子供たちの素朴な疑問や間違いから漢字指導法を考え、作っては現場で子供たちに試し…という繰り返しの中で生まれたものなのだ。
シリーズのワークは、いわばメンバーたちの最終的な「答え」なのだけど、そこに至るまでに通った宮下さんの迷いや指導の誤りがこの本には書かれている。

こうした子供たちの取り組みやことばは私を勇気づけた。この方法なら嫌がる漢字ドリルの練習から抜け出せるかもしれないと思った。と同時に、なぜ子供たちが積極的に取り組んだのか、そのわけを考えてみた。(p163:形成文字の仕組みを教えようと試みたときのくだり)

にあるように、目の前の子供たちから出発してこのシリーズは生まれたのである。通りで、深みがあるわけだ。

どうしてこのシリーズに惹かれるか

理由は二つ。
一つは上述した通り、子供から出発して子供にもまれて作り上げられたものだから。
もう一つは、漢字学に軸足を置いているから。

目の前の子供に寄りすぎて、楽しければいいみたいな教材はたくさんある。逆に、漢字学に寄りすぎてこどもにそっぽを向かれる失敗もよく聞かれる。
でも、

  複雑な漢字な世界の微細に入り込みすぎないぎりぎりのラインで、
  子供たちが漢字を楽しく、
  だけど、系統だって漢字の奥深さに触れられるような形
 

で教材を差し出している。
これは本当にすごいこと。

制作者の漢字指導、学習の捉えかた

私たちの漢字学習の方法のねらいは、たんにたくさんの漢字を覚えこませるためのものではない。むしろ、なるたけ少ない感じで、その少ない単体の漢字「文」がもとになって組み立てられているたくさんの漢字の、そのつながりや構造のおもしろさ、みごとさに気づいてもらいたくて作ったものである。(p47)

として、それを実現するために6つのキーポイントを差し出している。

① 「字」をつくる頻度数の多い「文(形・音・義を固有する象形文字)」を厳選したもの「101基本漢字」を把握
② すべての漢字の元になる十の画をとらえる。
③ 漢字は組み合わせる時に形が変わる
④ 常用漢字の大部分を「意味」でつなぐ重要な役割を担う98の漢字の部首を把握。
⑤ 中国語の音を受け継いだ漢字音になじむ。
⑥ 形が表す音でつながっている形声文字の音記号をつかむ。

どうこの教材を使えばいいのか

ここからは、ファシリテータを務めるマルチリンガル漢字指導法研究会でみんなと一緒に考えていきたいところ。
漢字がたのしくなる本ワークシリーズは以下の構成になっている。

① 基本漢字あそび
② あわせ漢字あそび
③ 部首あそび
④ 漢字の音あそび
⑤ 形声文字あそび
⑥ 漢字の単語あそび

ので、①~③までは、ある程度、これに沿った形で進めてもいいかなと思う。
④は小4レベルくらいまで漢字をマスターした子にはぜひトライしたい教材。
⑤は漢字が好きな子にはいいかなくらい。
⑥は漢字そのものがどうこうを超えて、「漢字を使う」ための術のヒント満載なので、是非とも必要。

お勧めの人

漢字がたのしくなる本ワークシリーズを教材に使おうと思っている方
はぜひとも読んだ方がいい。ワークはもちろん、そのままでも使えるし、これを使えば単発の楽しい授業はできると思う。
でも、楽しいだけで終わらせないで、系統的な漢字指導を考えている指導者だったら、読んだ方がいい。
ただ、このワークを漢字ドリルみたいに使っちゃうと元も子もないように思う。
自分自身が、漢字ってそうだったんだと!漢字の原理原則発見を楽しむところから始めてほしい。

最後に…宮下さんは、生前の泊まり込みの研究会でよく次のようなことを言っていたそうだ。

今後、誰が漢字の指導・学習システムを組むとしても、僕らの仕事がその検討の礎石となるにちがいない

そう思う。
お亡くなりになられてもうすぐ20年近くにたとうとしているのだけど、

  そのバトン、受け取りました!

という気持ちでいる。
きっと、学年配当漢字に沿っていないということが、この教材が学校現場で知られていない理由の一つだと思う。
けど、私が今、向かい合っている海外で学ぶ子供たちにはかえってこれが好都合。

先人の努力に感謝、尊敬の念を抱くとともに、これを可能にする文字、そして、本という存在のすばらしさに感動すら覚える私だった。